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最終更新日:2008年3月31日

提言

中途障害者が社会復帰するために

  1. 情報活用への道を
  2. 連携の強化を
  3. 支援コーディネータの育成を
  4. 地域完結型リハビリテーションの充実を
  5. 本人のエンパワーメントを
  • 国際生活機能分類の発想に基づいた社会を

病気や事故などで今まで描いていた人生設計の変更をよぎなくされ、本人も家族も周囲から隔絶されて絶望に向きあう中途障害者。その時もし、必要な手助けがタイムリーに寄せられ、一条の希望の光を見出せるとしたら、それは何だろうか。

“もともと完全な人なんていない。ある機能を失っただけだ”と社会が受容し、普通の暮らしに戻るための複合的な支援のしくみがあれば、中途障害者が社会復帰するのに今のような困難は無いはずです。

私達は、1年間に亘って当事者や家族、専門家が、経験を踏まえ、現実に則して熱心に話し合った結果を提言にまとめました。多くの方々に読まれ、実効性のある施策に発展することを期待しています。

1.情報活用への道:必要な人に必要な情報をわかりやすい状態で確実に提供できるシステムが必要です。

養護学校や福祉施設と縁を持たなかった中途障害者にとって、支援サービスの在りかを見つけることは難しいことです。公的サービスでさえ、市町、県、国と財源が異なるからです。たとえ支援サービスの在りかを見つけたとしても、その情報提供が行われるか否かは窓口担当者に頼らざるを得ない現実があります。

  1. 公的サービスに関わる情報のみならず、NPO等による多様で有効な支援サービスの情報についても各ケースの現状に照らしてわかりやすく簡単に獲得できるシステムが必要です。
  2. 支援を求めている当事者にとって、なによりも心強いのはそのニーズに応えきろうとする姿勢です。そのときに要求された情報のみならず、次の段階で必要とされるサービスの情報提供が必要なのです。
  3. 公的・非公的を問わず新たなサービスを創造できる委員会の設置が必要です。

2.連携の強化:医療現場から地域での生活や就労現場等への円滑な移行が必要です。そのためには既存機能を生かす重層的なネットワークシステムの構築が必要です。

医療機関、行政窓口、福祉施設、地域、ハローワーク、ジョブコーチ、企業等、それぞれのケースにより支援の糸口は様々です。また、これらの多様な社会資源は相談支援事業所等の活動によってつながることが可能です。しかし、依然として多くは個人的なネットワークによる場合が多いのが現実です。

  1. 当事者や家族の希望や目的にあった支援が継続的になされるよう、医療や福祉施設等、専門性をもった関係機関と地域の民生児童委員協議会等、既存の社会資源を生かすことが必要です。
  2. さらに、そこで得られ分析されたニーズや課題解決のための方策は、切捨てることなくボトムアップで福祉施策に反映させる必要があります。

3.支援コーディネータの育成:有効な制度や社会資源、支援する機関や人などの生きた情報を有機的に取りまとめて、多面的に動かすことのできるコーディネータの存在が必要です。

各ケースにおいて、課題を認識したり直接相談されたりした機関や人が、その行動範囲の中や限定された個人的ネットワークで解決策を探っているのが現状です。事例によっては、各方面の必要な機関や専門家が一堂に会して情報交換し、問題解決をはかるケース会議を開くことで、具体的かつ効果的な支援が可能となります。

  1. 広範囲をカバーするコーディネータの存在が重要となるとともに、優れたコーディネータの育成が望まれます。
  2. コーディネータの存在が社会的に認知され、職能として保障され、機能的かつ中立的に動くことができるしくみが必要です。

4.地域完結型リハビリテーションの充実:リハビリテーションの総合評価機能を充実させ、その効果の大きさを広報することが必要です。

リハビリテーションには、身体的リハビリのみでなく、現状を客観的に把握するための認知リハビリ、地域や職場で生き生きとした生活をおくるための社会的リハビリなどがあります。専門性をもった人が関わればさまざまな場面で状況改善のための機会があり、それを総合的に評価できる機能を充実されることが、リハビリテーションの有効性を広め、人々の人生の質の向上につながります。

5.エンパワメントの必要性:当事者やその家族が自らの力で本来持っている力を発揮することができるよう、ピアカウンセラーの育成や自助グループの支援など、公助・自助・共助のバランスをとりながらエンパワメントに関わる働きかけを強化することが有効です。

相談業務では、ピアカウンセリング、ピアサポートの有効性は明らかです。障害当事者が自分のニーズに気づき、最大限の豊かな社会参加を実現するための「社会生活力」を発揮することが可能になります。

  1. 専門的な知識やノウハウを得たピアカウンセラーの育成は、効果的な解決策のひとつです。
  2. 当事者団体、家族会、支援団体など、現場ならではの経験や知識が、具体的な情報となって発信する力は大きいものです。実際に、当事者や家族間でのコミュニケーションが、社会復帰への道を早めた例は少なくありません。これらの団体への強力な支援を求めます。

最後に:国際生活機能分類の発想に基づいた社会を築く必要があります。

  • 人の健康は、その人のおかれた環境や背景と、日常の生活機能が双方に影響しあう状態で、どの程度の機能を維持して生活しているかと言うレベルをあらわすという考え方です。
  • その人の生活機能がどのレベルにあるのかと分類評価するのですから、特定の障害名がつかなければ法的な救済が受けられないなど、制度の狭間に苦しむ人々をはじめ様々なニーズがある市民に適確なサービスを柔軟に提供できる方策を生み出すことができます。
  • 障害を特別なこととしてではなく、客観的に認識することにより、本人の障害受容と社会復帰への道を早めることができます。
  • 多様な人々の人権の確保と、その人らしく生きていく社会を構築することが可能になります。

「中途障害者の実態調査及び社会復帰支援事業」委員会
提言世話人:NPO法人 浜松NPOネットワークセンター

資料

  • 「エンパワメント」とは、社会的な抑圧のもとで、人間としての生き方が保障されてこなかった障害者自身に力をつけて自己決定を可能とし、自分自身の人生の主人公になれるようにという観点から、あらゆる社会資源を再検討し、条件整備を行っていこうとする考え方・手法のこと。
  • 「ICF」(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、人間の生活機能と障害の分類法として、2001年5月、世界保健機関(WHO)において採択された。それまでのWHO国際障害者分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心だったが、ICFは、「人の生活機能」(心身機能・身体構造、活動、参加)というプラス面からみるように視点を転換し、またその「人の生活機能」は「健康状態」(病気、変調、けがなど)と「背景因子」(人々の態度,価値観,物理的環境,自然環境,法律や政策・制度,商品やサービスをも含む環境因子や個人因子)との相互作用としてとらえた。

中途障害者の実態調査及び社会復帰支援事業委員会 委員

  • 秋山 尚也(聖隷浜松病院リハビリテーション部 作業療法士)
  • 粟倉 敏貴(ジョアン社会福祉士事務所)
  • 井ノ上 美津恵(NPO法人 浜松NPOネットワークセンター)
  • 植田 しずえ(脳外傷友の会「しずおか」)
  • 大野木 里美(NPO法人 浜松NPOネットワークセンター)
  • 片桐 伯真(聖隷三方原病院リハビリテーション科 医師)
  • 斯波 千秋(NPO法人 六星 障害者授産所ウイズ)
  • 鈴木 修(NPO法人 くらしえん・しごとえん)
  • 鈴木 大介(NPO法人 くらしえん・しごとえん)
  • 新野 秀幸(NPO法人 日本マルファン協会)
  • 山本 悦司(浜松市障害者相談支援事業所 信生 元相談員)

シンポジウム参加者からの提言

  • よい提言がたくさん出ているので、円卓会議などを得て徹底的にディスカッションをして纏め上げていくことはできないだろうか。できればそのまとめたものを事業として取り組んでいけたらいいと思う。
    PS.すばらしい提言がまとまっていました。関係機関が集まって事業として取り組めたらすばらしいですね。(小田木 一真 NPO法人 ぴあねっと浜松)
  • 区役所福祉課では申請しなくては教えられないことが多いようですが、当事者やその家族は全く知らないことばかりです。いろいろ決まりがあるのはよくわかりますが、よい方法はないものでしょうか。障害者の立場になって考えていただきたいと思います。私たちは行政窓口に頼らざるを得ません。(当事者家族)
  • 障害者を理解する「思いやり」が社会全体に無い限り、障害者が安心して暮らしていくのには無理がある。また他の健常者と同じ目線で見られると、あまりにもつらすぎる(過去の経験から)。
    「偏見・差別のないこと」は嬉しいが、つらく感じる現状を考えると、どうも「偏見・差別のないこと」の本当の意味を履き違えているようにしか思えてならない。(大石 誠 脳外傷友の会「しずおか」)
  • 中途障害者のスキルを有効活用する方法を当事者、行政、企業、ジョブコーチの連帯を深めることで実現を目指す。(飯田 育生 ウイズ)
  • 障害は他人だけのものでないと認識したい。(市民)
  • 高速道路料金が半額になって通院にも使えるので、非常に嬉しいことなのですが、上肢障害3級だと本人運転に限られてしまっています。でも片手で80Km/時は危なくて実際には使えません。同乗でも使えるようにしてほしいと思います。(当事者)

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